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夜中に来る者
夜中に誰かが訪ねてきた。
妻や子供を起こさないように寝室を出てインターフォンの画面を見ると、例の若い男が立っていた。
再び、女鍵屋からの使いでやってきたと言う。
あの後、何度か連絡を取ったが、彼女が電話に出ることはなかった。
逆に、水貴くんからは何度か電話があり、鍵を返してほしいと話をされた。
ただ、私の心はすでに決まっていた。
事情もわからないまま鍵を預かるには、随分長い期間だったと言っていいだろう。
その間、女鍵屋からの連絡もなく、こちらから連絡しても電話に出ない。
もう十分、借りを返したといっていいのではないか。
私は、この使いの男を心待ちにしていたところがあった。
マンションの玄関の鍵を解錠し、男がエレベーターで上がってくるまでの間、少し迷いが生まれた。
けれど、部屋のインターフォンを押される前に扉を開けるときには、その迷いも消えていた。
男は、ひどく陰鬱な感じのする風貌だった。
あまり長く話すことはためらわれた。
女鍵屋の事情も聞いてみたが、要領の得ないことを口の中で呟くばかりで、一向に埒があかない。
彼の方も少し苛ついているようで、やおら右手を私に突き出してくる。
これ以上、何のやりとりがあるだろうか。
私はその手に鍵を渡した。
彼は少し会釈めいたものをすると、そのまま私に背を向けた。
私は、その背中に向かって、彼の名前を尋ねてみた。
彼は振り返らないまま、「Fと言います」と答えた。
その口調に、私はなぜか後悔していた。
| 02:30 | - | - |
桐夫だったら
先ほど、女鍵屋からの依頼で若い男がやってきた。
これ以上、鍵を預かってもらうとあなた自身に危険が及ぶかもしれない。預けたのは間違いだった。もう、返してもらってかまわない。
そう、女鍵屋が言っている、と彼は告げた。
インターフォン越しに見えるこの見知らぬ男は、ひどく疲れ果てているように見えた。
確かに、ここ数日、水貴くんが毎晩やってくる。その様子は、とても尋常には思えない。
鍵を預かってほしいと彼自身も言っていたが、今では逆恨みされているような状態だ。
そこまでしても彼に鍵を返さないのには理由がある。
女鍵屋に借りがあるからだ。
正確に言うと、彼女の夫に借りがあるからだ。
桐夫が返していない1本の歯。それを彼女に返さないと、その借りは消えることがないだろう。
桐夫だったらどうするだろうか? そう考えてみた。
おそらく、女鍵屋に操られることは不愉快に違いないだろう。ただ、借りがあることも事実だ。部屋の鍵を預かるくらいのことでその借りが返せるのなら、多少の危険は顧みないだろう。
私は、インターフォンを通して、その男に尋ねてみた。
鍵を持っていてもかまわない。それで借りが返せるのなら、危険な目に遭っても仕方ない。大事なことは、これで借りが返せるかどうかだ。
若い男は困惑したようだ。
それはそうだろう。彼がそこまで知っているとは思えない。
しばらくの沈黙の後、彼女に聞いてみよう、と言ってそのまま立ち去った。
| 00:57 | - | - |
約束
先ほど、鍵を預かっている水貴という青年から電話があった。
こんな遅い時間に電話をよこすのは、余程火急な用事だろうと思ったら、例の鍵を返してほしいというものだった。
女鍵屋が言った通りだった。
午後4時以降に鍵を返してはならない。でも、必ずそういう電話が掛かってくる。理由はどうであれ、絶対に返してはいけない。
それが、彼女の話だった。
私は水貴君とも、4時以降、どんなことがあっても鍵は返さない、と約束をしたはずだ。
むしろ、彼の方が強くそれを望んでいた。
それなのに、こんな夜中に電話をかけてきた。
しかも、電話口の彼は、あの時の利発な印象とはかなり違っていた。
一方的に早口でまくし立てて、自分の要求だけを告げてくる。
ひどく焦っているような印象だった。
私が、約束のことを告げても、理由も言わずに状況が変わった、の一点張りで、とにかく鍵を返して欲しいと言う。
挙げ句の果てに、私が鍵を返さないのは泥棒と同じだと責め立てる。
さすがに、私もいくぶん気分を害した。
とにかく、約束通り返すわけにはいかない、と言って電話を切った。
少し強い口調になっていたかもしれない。
| 04:20 | - | - |
水貴
一昨日は、女鍵屋に連れられていきなり他人の家に行くことになってしまった。
以前、彼女と一緒に暗渠で若い女性の死体を見つけたとき、深夜の病院で事情聴取を受けた。その時に、死んだ女性の友人として病院にいた若い男。
昨夜出かけていったのは、その若い男の家だった。
けれど、私が彼のことを覚えているわけはない。
むしろ、その家の印象の方が強烈だった。
玄関を開けたのは、端正な顔立ちに青白い影が射した若い男だった。大学生くらいだろうか。
頭の良さそうな面持ちだったが、冷たさと病的な印象を受けた。
彼は無表情に私たちを迎えた。
女鍵屋は、そんな彼におかまいなく家の中に上がり込んでいった。彼女が招くので、私もついていかざるを得なかった。
家に足を踏み入れると、その異様さに戸惑った。
濃い湿気と黴の匂いが、家じゅうに充満していた。窓を開けないのだろうか。壁に触れると、手のひらに湿気を感じた。
壁や棚や家具やカーテンは、昼間でも電気をつけなくてはならない暗い室内でうっすらと膨張して見えた。よく見ると、それは黴だった。
なんという家だろう。
女鍵屋はその異様さも知っているかのように先へ先へと進み、ある扉の前で止まった。
それが開けてはならない扉だと言うことは私でもわかった。
一面に御札が貼られていたからだ。
開かずの間だ。
その後のことは、信じられないことの連続だった。
女鍵屋が新しい鍵を取り付けようとすると、扉の奥から女の叫び声が挙がった。
女がその奥の部屋にいるのだろうか。
けれど、それがこの世には存在しないはずの恐ろしい者であることはすぐにわかった。
その女の妨害をかわしながら女鍵屋は錠前を取り付けると、その鍵を私に渡して一人で家を出た。
私は早くその家を出たかった。
けれど、鍵を預かる以上、挨拶はしておかなくてはならない。
若い男は、水貴と名乗った。
| 20:09 | - | - |
一周忌
今日は桐夫の一周忌に当たる。
早いもので、あれから1年が経ってしまった。
今日は1日仕事を休んで、桐夫のための時間に使おうと思っていた。
例の女鍵屋から電話がかかってきていたが無視をして、桐夫の好きだったイタリアンレストランで昼食をとった。
穏やかな気候の気持ちの良い日だ。
花屋で花を買い、そのまま、桐夫の眠っている墓地まで歩いて上っていった。
桐夫の墓前には、すでに誰かが花を手向けていた。
その花と一緒に、一冊の本が置かれていた。桐夫が中学生の頃に好きだったI.T.の本だ。
なぜ、そんな本がここに置かれているのだろう。
しかも、桐夫が中学生の頃にその本を愛読していたことを知っている人間はほとんどいない。
もし知っていたとしても、なぜその頃の愛読書を置いていったのだろうか?
私はその本を手に取って、奥付を見た。去年の春に版を重ねていた。
謎は解けぬまま、本を戻した。

その後、足は自然と桐夫の家に向かった。
そんなところに行っても何があるわけでもない。けれど、家を見ずに今日を終わらせるわけにはいかない。
そう思ったのがいけなかった。
桐夫の家は、夕方の空気の中で静かに佇んでいた。
もう1年も主を失ったままの家は、やけに空虚に見えた。
しばらく玄関先に佇んで、帰ろうと踵を返すと、目の前にあの女が立っていた。
女鍵屋だ。
私を恨めしそうな目で見据えたまま、何で電話に出てくれないのか、と何度も何度も呟いた。
私はそれに答えるべきか迷ったが、答えなければ終わらないような気がして、忙しかったのだ、と言葉を発した。
女は聞いていないかのように反応がなかった。
「それでは一緒に来てください。死んだ主人が死んだ女の葬儀に呼ばれているんです。気味が悪くて仕方ありません。死んだ主人に借りがあるのなら、主人を助けてくれるでしょう? 今日、その借りを返してもらいます」
そのまま、女は当然というように真っ直ぐに歩いていく。
私は、その後を追わないわけにはいかなかった。

そして、ある家に着いた。
| 02:10 | - | - |
何かがあらわれる
例の女の鍵屋から電話がかかってくる。
今夜は嫌な気がするから、会うことができないかと言う。
この間も呼び出されて、若い女性の死体を発見した現場に居合わせることになってしまった。
あの鍵屋につきあうと良くない方向へ進みそうな気がして、これ以上、関係を深めたくない。
けれど、鍵屋はひどく真剣で、私の言うことになかなか納得してくれない。
何かがあらわれる、
何かがあらわれる、
と、盛んに繰り返すが、何のことなのかよくわからない。
これ以上、つきあっていても押し問答になるばかりだ。
繰り返すばかりの鍵屋の話を、半ば強引に断つ感じで、私は電話を切った。
嫌な感触だけが、私の中に残った。
| 05:15 | - | - |
知った顔
その後、私が救急車を呼んで、右足の小指のない死体は病院に運ばれた。
厄介なことに巻き込まれ、私は辟易していた。
こんな女に呼び出されたために、雨の中で若い女性の死体を発見し、夜中まで病院で事情聴取を受けるはめになってしまった。
刑事たちから解放されたのは明け方だった。
病院から出て、疲れた体を引きずりながら、タクシー乗り場まで歩いている最中、彼女が言った。
「さっき、知っている顔があったわ」
聞けば、一度鍵を交換した家を管理している不動産屋だと言う。
「その家は…」
と言いかけて、彼女は不快な顔をした。
「ああ、嫌だ。また何か言ったでしょ?」
僕が聞き返すと、気にしないでくれと言ったきり、もう口も聞かなくなった。
白み始めた空を見上げてから、私たちは別々のタクシーに乗った。
| 12:59 | - | - |
白い足
夜になって、あの女から電話が入った。
すぐに来てほしい、という切迫した声だった。
もう夜になっていたし、昼間の天気とは変わって、雨が降り始めていた。
外出する気分にはなれなかったが、すぐに電話を切られて、断るタイミングを逸してしまった。
傘を差して、女の指定した場所まで出かけていった。
何者かもわからない女から呼び出されて、こんな時間に暗渠にでかけるのも奇妙な話だ。
自分が滑稽なことをしているようで何度か戻り掛けたが、桐夫が女に借りがある、ということが、どうにも引っかかって、言われた道をたどるしかなかった。
女の指定した場所はわかりやすかった。
一旦暗渠に出たら、それを川下へと進んでいけばよかったからだ。
普段歩くことのない道は、新鮮で楽しかった。
暗渠に面した家々や花の植えられた花壇などを見ながら歩いていくと、長身の女が街灯の光の差さないところに立っているのが見えた。
私は、いささかひるんだが、何気なさを装いながら女に近づいた。
声を掛けようとしたときに、女が目の前の草むらを指さした。
そこにはあまり手入れの行き届いていない花壇があり、草が生い茂っていた。
腰くらいの高さもある草むらの奥に、何かが見えたような気がした。
雨に濡れた草むらを、濡れないように用心しながらかき分けると、いきなり目の前に白いものが見えた。
投げ出された足だ。
丈の長いスカートから二本の足が伸びて、雨に濡れている。
私は思わず息を呑んだ。
さらに草をかき分けると、顔が見えた。
濡れた黒い地面の上に、若いきれいな顔が透き通るような白さをたたえている。
不意に目を開けて、起き上がってきそうだったが、彼女が死んでいることはひと目でわかった。
振り返ると、あの女がじっとこちらを見ていた。
私は何かを聞こうとしたが、喉が干上がって声が出なかった。
それを勘違いしたのか、彼女は右耳を私に突き出してきた。
私は首を横に振ってからため息をついた。
彼女は「今夜は新月だから」と言った。
私は、もう一度若い女性の死体に目をやった。
白い素足に、雨粒が落ちて流れていた。
足元にサンダルが落ちていた。
履かせてやらないとかわいそうに思えて拾い上げた時、彼女の右足に小指がないことに気がついた。
| 03:46 | - | - |
8月が終わる
2週間前に桐夫の家の前で会った女は、「亡くなった主人のものを返してもらいに伺いました」と言った。
「ご主人の?」
と、聞き返すと、
「え?」
と言って右耳をこちらに突き出してきた。
「ご主人のなにをですか?」
と、もう一度聞いてみた。
「すいません、こっちの耳が悪いので」
と女が答えた。
どうやら左の耳が聞こえないようだった。
私は、さらに彼女の突き出した右耳に向けて今度は区切りながら喋った。
何度も同じことを話すのは難儀だ。
「なんのことか、よくわからないのですが」
すると、彼女は答えた。
「あなたのお友達に殺された、私の主人のものですよ」
私は愕然とした。
すると彼女は8月も終わる頃にもう一度連絡する、と言って背を向けたのだ。
その背中に声を掛けたが、私の声が聞こえなかったのか、あるいは聞こえたのに無視をしたのか、いずれにしても彼女は一遍も振り返ることなく、そのまま立ち去ってしまった。
それから2週間が経つ。
彼女の言った8月の終わりだ。
今日も、連絡はない。
私には彼女の言っている意味がわからない。
明日で8月が終わる。
| 03:41 | - | - |
肌寒い盆
今日は肌寒い陽気だ。
暑さにやられていた体は一息つけると思ったが、あまりに温度差がありすぎてかえって疲れてしまった。
夕方から落ち着かなくなってきた。
原因はわからない。
宵になって雨も上がったので、散歩に出た。
足がなんとなく桐夫の家に向かっていた。
別段、目的があったわけではなかった。
ところが、家の前に来たときに、そこに人が立っているのが見えた。
髪の長い女だった。
先月に、桐夫の家の前に立っていた女だ。
私が声をかけようとすると、先に女が口を開いた。
「Yさんですね」
どうして私のことを知っているのだろう?
その後、女は私に言った。
「今夜は満月だって知っていました?」
振り仰いだが、雲に隠れて月は見えなかった。
| 09:46 | - | - |

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